最新のCTD測定機器を用いた気候変動に関する研究

最新のCTD測定機器を用いた気候変動に関する研究

研究・調査の状況について

北極圏である本地域の海流変動が北欧の気候に及ぼす影響を知る手掛かりになる可能性が示唆されるため、北極研究グループは最新の測定機器SonTek CastAway-CTD(以下、CastAway-CTD)を駆使し、表面が氷に覆われた海中の水温、塩分を測定しました。

カトリン北極調査は、科学者と探検家のユニークな協力プロジェクトです。調査に使用したCastAway-CTDは小型軽量なため携帯性に優れ、操作パソコンや表示器を必要としないため、非常に厳しい環境下でも迅速かつスムーズに作業を行うことができました。

以前までの研究では、氷の厚さと海洋酸性化に焦点が当てられていました。 しかし、最新のカトリン北極調査では表面を覆う氷の下に発生する淡水流に注目しました。 これにより氷の融解が底層から上層にかけて地球規模で海洋循環におよぼす影響について理解するヒントになる可能性があると考えました。

SonTek Castaway CTD

CastAway-CTDは、小型堅牢なCTD計です。5 Hzの測定間隔により詳細な空間分解能と高精度を両立させる高度な技術が投入されています。

北極圏の気候変動について

長年にわたり、気候研究者は北極圏が全球気象システムに影響を与えることに懸念を示しており、また北極圏が果たす役割にも注目してきました。北極圏は地球の熱、酸素、栄養を分配する巨大な水のコンベアベルトである熱塩循環に大きく寄与すると考えられています。

SonTek Castaway CTD - deployment

カトリン北極調査チームの研究者は、北極圏の氷の下で氷の融解と温暖化の影響を追跡しました。

熱塩循環の変化と、熱循環のフィードバックにより発生した北極圏内の永久凍土由来のメタンは、地球規模で気候に顕著な影響を与える大きな2つの要因であると考えられています。

2011年、カナダ北極諸島の北端に位置するプリンスグスタフアドルフ海で一時的に形成される氷床を調査するため、カトリングループによって委託されたカトリン北極調査が始まりました。

Thermohaline circulation (THC) conveyor belt

熱塩循環(THC)コンベアベルト

有機物チームの主要な測定パラメータの一つは、有色溶存有機物(CDOM)であり、時折、吸光度が通常時の40%ほど高くなる場合があります。北極圏のCDOMの多くは、北ロシアにある3つ大河の河口に由来しています。

CDOMの重要性について、イギリス生まれの海洋学者ドクター・ビクトリア・ヒルは次のように述べています。「局所的には、CDOMは熱的成層化を増加させ、熱を表面近くに閉じ込めると考えられます。そうなると下層水との混合が起こりにくくなります。 水面に氷が存在し、それが融解する場合には上層に淡水層が形成されますが、それが温ためられてしまうと、深層に向かう冷たい水の流れが止まり、大局的な影響として北ヨーロッパにガルフストリームを引き寄せることができなくなります。」

CDOM in the Arctic

北極圏では有色溶存有機物(CDOM)の多くがロシアの広大な河口域に由来します。

研究者たちは、北極海の透明度が非常に高いと予想していましたが、調査団チームによって否定されました。実際、ドクター・ヒルは次のように述べています。「チュクチ海では、太陽放射の70〜80%がCDOMによって吸収されていました。」

スコット極地研究所のエイドリアン・マッカラムによって回収された別のデータセットでは、水柱のサンプルから以下の結果が得られました。

200メートル以上の深さでは、水温が予想より1度低かったのです。通常は安定している深層水のこの大きな変化は、表面の融解水が沈み、温かい水が表面氷と接触することを促進していることを示唆しています。これにより、北極海の水温変動への理解と関心が高まりました。

北極海における大水深プロファイリングには高度な専門機器が必要でした。しかしCastAway-CTD は、導電率、水温、深度を迅速に決定するためのシンプルで正確な方法を提供するように設計されています。GPS、センサー、データログ、ディスプレイを一つのコンパクトな機器に組み込み、水面に投げ込むだけでプリファイリングデータを直ちに回収できます。

The SonTek CastAway-CTD measures conductivity, temperature, and depth.

CastAway-CTDは導電率、水温、深度を測定します。

CastAway-CTDは自動的にデータを収集・計算し、小さなディスプレイに結果が表示されます。CDOMが海洋温度に与える影響の調査は、CastAway-CTD(導電率、水温、深度)の理想的な応用例となりました。

きめ細かい導電率、温度、深度のサンプリングが可能な軽量で使いやすく水深測定器でもあるCastAway-CTDは、カトリン北極調査チームにとって重要な測定機器として活躍しました。

Castaway-CTDユーザーフィードバック

カトリン探検チームのアン・ダニエルズは、調査の成功にCTD測定の重要性を強調しました。「Castaway-CTDは非常に軽量であり、長距離におよぶ科学探検に最適でした。機器に装備されるLCDディスプレイはフィールド上であってもCTDからの情報を確認できるため非常に便利であり、「調査状況」をその場で本部に報告することができました。これにより、調査団が英国に戻るのを待たずに調査結果に対してすでに関心が生まれていました。

Castaway-CTDの立ち上げは簡単でした。北極の氷に作成されたボーリング穴に投入し、最大100メートルの深さまで自由落沈下させると、その間にセンサーが大量のプロファイリングデータを収集します。」

Castaway-CTDは、極限環境での調査に特に適して設計されています。頑丈で非腐食性のハウジング、フロースルー設計、アルカリ乾電池での駆動、工具不要の操作により、Castaway-CTDは北極圏のような過酷な調査に最適な器材でした。

SonTek Castaway CTD - warm in jacket

CastAway-CTDは非常にコンパクトで、ポケットに入れて持ち運ぶことができます。

CastAway-CTDの価値について

科学プログラムマネージャーのティム・カリングフォード博士は次のようにコメントしています。CastAway-CTDは、2011年のカトリン北極調査で3月から5月まで調査チームによって使用されました。この時期の北極圏の気候は極端で、気温は-40度Cまで下がります。  

それにもかかわらず、CastAway-CTDは氷に掘られた穴をから100メートルの深度までスムーズに投入できました。そのコンパクトな性質により、取り扱いが容易でした(例えば、ポケットからの出し入れが楽でした)。

機器に装備されるLCDディスプレイは、温度と塩分の測定結果を即座に表示することが可能で、定期的にロンドンの本部に測定結果を伝えることができました。データ解析のためのCSVデータの抜き出しも簡単にできました。

CastAway-CTDのメンテナンスは非常に簡単で、新鮮な水でさっとすすぎ、センサー電極が汚れた場合、付属のブラシで軽くこするだけです。これだけでCastAway-CTDを良好な状態に保つことができます。

A family of whales off the coast of Ceylon, Sri Lanka

セイロン、スリランカの海岸沖のクジラの家族

温水域でのアプリケーション

最近、CastAway-CTDは、スティーブン・フライのナレーションによるBBC1の「オーシャン・ジャイアンツ」で同様の方法で使用されました。

3部作の最初のエピソードでは、通常は移動性のある種である青い鯨が、なぜスリランカの海岸線周辺に留まるのかを調査しました。

海洋生物学者アシャ・デ・ヴォスは、異なる深さで塩分と温度レベルを記録するためにCastAway-CTDを使用し、これらの鯨を一年中支えるこの水の特性を研究しました。

彼女は次のように結論付けました。「私たちの海岸線には、深部から冷たく栄養豊富な水が大量に湧き上がる地域があります。これらの湧昇は、鯨の餌であるオキアミにとって理想的な条件を提供します。」

CastAway-CTDは従来のCTDシステムのすべての利点を持ちながら、手返しの良さ、携帯性、柔軟性、計測スピード、信頼性でより魅力的な機器です。

この機器は、北極の冷たい水でもスリランカの熱帯水域でも同様に使用されています。 

SonTekのCastAway-CTDの詳細については、SonTek CastAway-CTD | Xylem Japan (ザイレム ジャパン) | ザイレムジャパン 「Xylem Japan」をご覧ください。

by 翻訳者 ザイレムジャパン株式会社 中澤祐生